2015年10月6日火曜日
私が好きな実話
~縁を生かす~
先生が小学五年生の担任になった時、どうしても好きになれない児童が
ひとりいた。
その少年は、一人服装が不潔でだらしなかった。
中間記録に先生は少年の悪いところばかりを記入するようになっていた。
ある時、少年の一年生からの記録が目にとまった。
「朗らかで、友達が好きで人にも親切。勉強も良くでき、将来が楽しみ」とある。
間違いだ。 他の子の記録に違いない。
先生はそう思った。
二年生になると
「母親が病気で世話をしなければならず、学校に遅刻する」と書かれていた。
三年生では
「母親の病気が悪くなり疲れていて教室で居眠りをする」
三年生の後半の記録には
「母親が死亡。希望を失い、悲しんでる」とあり、
四年生になると
「父は生きる意欲を失い、アルコール依存症となり、子どもに暴力をふるう」
先生の胸に激しい痛みが走った。
ダメと決めつけていた子が突然、
深い悲しみを生き抜いている生身の人間として自分の前に立ち現われてきたのだ。
先生にとって目を開かれた瞬間であった。
放課後、先生は少年に声をかけた。
「先生は夕方まで教室で仕事をするから、あなたも勉強していかない?
分からないところは教えてあげるから」
少年は初めて笑顔をみせた。
それから毎日、少年は教室の自分の机で予習復習を熱心に続けた。
授業で少年が初めて手をあげた時、
先生に大きな喜びが沸き起こった。
少年は自信を持ち始めていた。
クリスマスの午後だった。
少年が小さな包みを先生の胸に押しつけてきた。
あとで開けてみると、香水の瓶だった。
亡くなったお母さんが使っていた物に違いない。
先生はその一滴をつけ、夕暮れに少年の家を訪れた。
雑然とした部屋で独り本を読んでいた少年は
気がつくと飛んできて、先生の胸に顔を埋めて叫んだ。
「ああ、お母さんの匂い 今日は素敵なクリスマスだ」
六年生では先生は少年の担任ではなくなった。
卒業の時、先生に少年から一枚のカードが届いた。
「先生は僕のお母さんのようです。そして
今まで出会った中で一番素晴らしい先生でした。」
それから六年 またカードが届いた。
「明日は高校の卒業式です。
僕は五年生で先生に担任をしてもらって、とても幸せでした。
おかげで奨学金をもらって、医学部に進学することができます。」
十年を経て、またカードがきた。
そこには先生に出会えた事への感謝と
父親に叩かれた経験があるから患者の痛みが分かる医者になると記され
こう締めくくられていた。
『僕はよく五年生の時の先生を思い出します。
あのままダメになってしまう僕を
救ってくださった先生を、神様のように感じます。
大人になり、医者になった僕にとって、
最高の先生は、
五年生の時に担任して下さった先生です。」
そして一年。
届いたカードは結婚式の招待状だった。
『母の席に座って下さい」
と一行、書き添えられていた。
この実話で、日々出会う人に対して
偏り見らず良い面を見出し、何か問題があれば手を差し伸べる
そんなふうに生きていきたいと思います。
By 柴田
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